東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)149号 判決
本件審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考えてみるに、成立について争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)、第四号証(実用新案出願公告昭四九―四一五六八号公報)、第一〇号証(大阪地方裁判所における証人福本頼信の証人調書)、原告笹本盛雄本人尋問(第一回)の結果によりその成立を認め得る甲第八号証の三四ないし三六、原告笹本盛雄本人尋問(第一、二回)の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、原告が本件考案の実用新案登録出願書類の写し及び本件考案の実施品の見本をもつて、訴外山本金一の経営する山本樋受製作所に、本件考案の実施品の製作を依頼したのは、本件考案の実用新案登録出願をした日である昭和四三年三月七日であつて、その日前には、原告は何人に対しても本件考案の内容を知らせていなかつたことを認定することができ、成立について争いのない甲第三号証(特許庁における証人山本一郎の証人尋問調書)の記載、証人山本一郎、同高山昌照の証言中右認定に反する部分は、当裁判所これを措信せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
そうすると、原告が本件考案の実用新案登録出願の日前である昭和四二年一〇月頃訴外山本金一、同山本一郎の両名に、本件考案に係る樋受金具と同一構造の見本を、その構造に関し不特定の第三者に知らせないという条件を付けることなく、見せたから、本件考案はその出願前日本国内において公然知られた考案であると認定した本件審決は、その認定を誤つたものであつて違法である。
よつて、原告の本訴請求は理由があるから、本件審決を取消す。
〔編註〕 本件における審決理由の要旨は左のとおりである。
請求人(被告)は、本件考案は、その出願前に、被請求人(原告)を発註者とし件外山本金一を受註者として行なわれた両者間の売買取引において、公知公用に属していたから、その登録は、実用新案法第三条第一項第一号及び第二号の規定に違反してなされたものであつて、同法第三七条第一項第一号の規定により無効とされるべきである、として、昭和五二年一〇月二一日に本件実用新案登録の無効審判を請求した。
そこで、前記請求の理由について検討すると、昭和四二年一〇月頃、被請求人(原告)が大阪府八尾市大字竹淵四七二に当時在住の山本金一及び大阪府八尾市大字竹淵五一一の九に現住の山本一郎に八尾市竹淵二二二番地所在の山本樋受製作所(経営者前記山本金一)の工場内事務所で、弧状の樋受主体(検甲第一号証及びその見取図参照、その他の構成についても以下同じ)と取付枠を別体に形成して前記主体の一端折曲縁にボルトを固定し、取付枠の前記主体に連結すべき屈曲杆部に該杆全長に亘る長溝孔を形成して前記折曲縁と前記屈曲杆を添接状で且つ前記折曲縁至端に突設した屈曲突片を前記長溝孔内に嵌入し、前記ボルトを前記長溝孔に挿通した上、ナツトで締着して成る樋受金具を、その構造に関し不特定の第三者に知らせないという条件を付けることなく、註文の見本として見せた事実を、口頭弁論の全趣旨及び証人前記山本一郎の証言によつて認めることができる。
そして、本件考案の要旨は前記認定の樋受金具の構造に係る思想と同一である。
従つて、本件考案は、その出願前日本国内において公然知られた考案であるから、本件実用新案登録は実用新案法第三条第一項の規定に違反してされたものである。